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医療ストライキ1年、救急室の「たらい回し」が日常となった

2025年、医療ストライキ1年。救急室のたらい回しが2倍に急増し、ビッグ5の癌手術は29%急減…医療崩壊の統計的実態と2026年の教育大混乱の展望

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公開日 · 12分で読了
医療危機を象徴する、混雑した病院のロビーで待つ患者たち
Image: 実際の現場の様子を収めた資料写真です。

止まってしまった病院の時計、悪夢となった1年

2024年2月20日、政府の医学部定員2,000人増員発表に反発し、専攻医たちが集団で辞表を提出した。当時、主要修練病院100か所の専攻医の55%に該当する6,415人が辞表を出し、このうち1,630人は直ちに勤務地を離脱した。

初期には「まさか医師たちが患者を捨てるだろうか?」という楽観論もあったが、今や医療空白事態は取り返しのつかない我々の社会の「ニューノーマル(New Normal)」となってしまった。

10ヶ月が過ぎた2025年12月現在、上級総合病院の専攻医数は約6,800人から1,549人へと5,300人以上減少した。95%以上の専攻医が復帰の意思がないと明らかにした中、患者たちは病んだ体を引きずって病院を探し回るが、「受け入れてくれる医師がいない」という冷たい拒絶だけが返ってくる。首都圏の大型病院の手術予約は約束もなく延期され、癌患者たちは抗癌治療の日程が遅れるのではないかと毎日夜も眠れずに過ごしている。

統計で見る救急室大混乱

最も致命的な崩壊は救急医療体系で起きた。心停止患者が救急車の中で収容可能な病院を見つけられず、路上で死亡するという、いわゆる「救急室たらい回し」事故が日常となった。

救急室が患者の収容が難しいと事前告知した件数を見れば、事態の深刻さが如実に現れる。2023年には5万8,520件だった救急室収容制限告知件数が、2024年には11万3件と約2倍増加した。

2025年8月までにすでに8万3,181件が発生し、年末には2024年の数値を超えると展望される。名節連休期間にも救急室診療制限メッセージが前年比70%増加するなど、現場の混乱は続いている。

2024年には救急医学科専攻医の辞職比重が前年比ほぼ6倍急増した。救急室の腰の役割を果たしていた専攻医たちが大挙して抜け出し、「ゴールデンタイム」という言葉はもはや死語となった。救急室の敷居をまたぐこと自体が「空の星を取る(非常に難しい)」ことになってしまった現実だ。

政府は非常診療支援のために救急室専門医の診察料点数を100%引き上げるなど各種対策を出したが、人材自体が不足している状況で点数引き上げだけでは限界が明確だ。

ビッグ5病院の癌手術29%急減

専攻医離脱の衝撃は重症患者たちに最も直接的に伝わった。2024年2月から6月まで全国上級総合病院の癌手術件数は前年比16.3%減少した。

特にソウル大病院、セブランス病院、サムスンソウル病院、ソウル峨山病院、カトリックソウル聖母病院など、いわゆる「ビッグ5」病院では癌手術件数がなんと29%も減った

癌患者たちにとって手術日程が遅れることは、すなわち生存率の低下を意味する。全く同じ病期の癌であっても、手術が2週間、3週間遅れれば転移確率が上がる。

中央政府被害申告支援センターに2024年2月19月から6月21日まで受け付けられた相談は3,000件以上であり、このうち813件が正式被害申告につながった。申告内訳を分析すると476件(58.5%)が手術遅延であり、179件は診療支障、120件は診療拒絶だった。患者被害の大部分(82.2%)は専攻医依存度が高い上級総合病院で発生した。

「手術予定日が3週間も延びました。その間に癌細胞が広がったらどうするんですか? 私は死ねということですか?」

ある胃癌3期患者の絶叫は、数万人の患者たちの共通した怒りを代弁している。

地方必須医療の焦土化

ソウルと首都圏の状況がこの程度なら、地方はすでに「医療砂漠」に変わっている。地方医療院の内科、外科、産婦人科、小児青少年科など必須医療科目の専門医が相次いで辞職し、「無医村」地域が都市の真ん中に拡散している。

子供が熱を出しても行くところがなく、夜明けから数十キロメートル離れた他の都市の病院へ「遠征診療」に出なければならない親たちが増えている。分娩ができる産婦人科がなく、妊婦たちが近隣の大都市まで数時間ずつ車を走らせなければならないことも日常茶飯事だ。

地域医療の崩壊は地方消滅を加速化する起爆剤となっている。若い世代は「子供を産んで育てられる病院もないところでどうやって暮らせというのか」と言い、都市へ去っている。

手術を拒否された妊婦が胎児を失う事例、救急車が病院を見つけられず時間を浪費してゴールデンタイムを逃す事例がマスコミに連日報道されている。今や地方では「重病にかかったらソウルへ行って死ね」という自嘲混じりの言葉が出回っている。

戻らない専攻医たち

政府はこれまで業務開始命令撤回、免許停止猶予、修練特例などあらゆる融和策を出し、専攻医たちの復帰を訴えた。しかし2025年12月現在、全体専攻医の復帰率は依然として一桁(約8%)にとどまっている。

専攻医たちは「未来がない韓国医療には戻らない」として微動だにしない。バーンアウトを訴えて病院を去ることを超え、MZ世代の医師たちの間ではUSMLE(米国医師免許試験)準備クラスが盛況を博している。

海外移住説明会が門前市を成し、「頭脳流出(Brain Drain)」が現実化している。日本、米国、中東などへ去ろうとする若い医師たちが増え、韓国医療界の腰が切れている。

専攻医が去った場所を黙々と守っていた専門医や教授たちさえ、殺人てきな業務強度に耐えられず脱尽を訴えて病院を去っている。ある大学病院の外科教授は「専攻医がいた時は夜間当直が週に一二度だったが、今は隔日で立たなければならない。体力的に限界」と吐露した。

2026年教育大混乱:7,500人同時授業の恐怖

医療現場の崩壊より恐ろしい時限爆弾が教育現場で爆発する準備をしている。まさに2026年度の医学部教育大混乱だ。

2025年に授業を拒否して留年した24年度入学生(約3,000人)と2026年に新たに入学する25年度新入生(増員含め約4,500人)が合わさり、なんと7,500人の学生が同時に1年生の授業を聞かなければならない史上初有の事態が確定的だ。これは平年比2.5倍に達する規模だ。

これほど多くの学生を収容できる講義室や実習機材はどこにもない。大学本部は大急ぎでコンテナ仮設建物を建て、オンライン講義を準備しているが、医学教育の特性上、現場実習のない理論教育は中途半端なものに過ぎない。解剖学実習の場合、カデバ(寄贈遺体)一体を10〜15人の学生が囲んで見物だけして終わる観光実習になるだろうという懸念が現実になっている。

医学部教授たちは「このような環境では正常な教育が物理的に不可能だ」と断言する。教育の質低下は必然的であり、これは結局実力が不足した医師が排出され、国民の生命を脅かす結果につながるだろう。父兄と学生たちは「不実教育で登録金だけ捨てることになる」とし、大規模登録金返還訴訟と授業拒否闘争を予告している。

医師排出の断絶と失われた5年

2025年に行われた第90回医師国家試験(国試)実技試験の受験者は、対象者3,400人余りのうち382人に過ぎなかった。受験率が11%水準に暴落したのだ。これは2026年に排出される新規医師免許所持者が平年の10分の1水準に減るということを意味する。

新規医師がいなければインターン(修練医)を選抜できない。インターンがいなければレジデント(専攻医)1年目もいない。こうして医療人材供給のパイプラインが切れ、今後4〜5年間専門医排出が中断される人材空白(Void)区間が発生することになる。

直ちに2025年から軍医官と公衆保健医(公保医)の需給にも非常事態となった。軍医療体系と農漁村医療システムが崩壊する危機に瀕した。

病院の財政破綻

患者が減った病院の経営難は深刻だ。ソウル大病院、セブランス病院などいわゆる「ビッグ5」病院でさえ、一日数十億ウォンの赤字を記録している。2025年上半期だけで主要上級総合病院の累積赤字が1兆ウォンを超えたという統計が出た。病床稼働率は50%台に落ち、葬儀場、駐車場など付帯事業収入さえ急減した。

地方私立大学病院の状況はさらに深刻で、賃金未払いが現実化した。一部の病院は職員の無給休職を強要したり希望退職を募ったりしており、病棟を閉鎖して統廃合するなど苦肉の策を使っている。病院が倒産すれば地域経済にも打撃が大きいだけでなく、地域住民の健康権が根こそぎ脅かされることになる。

政府と医療界のチキンゲーム

政府と医療界の立場は1年以上一歩も縮まらなかった。政府は「医療改革の核心である2,000人増員は妥協の対象ではない」として強硬論を固守しており、医療界は「科学的根拠のない増員を白紙化しなければ対話はない」と対抗している。双方が名分に閉じ込められ実利を得られない最悪の「チキンゲーム」を繰り広げている。

最大の問題は相互信頼が完全に崩れたという点だ。医療界は政府を「医師を悪魔化し弾圧する独裁権力」として、政府は医師たちを「既得権を守ることに血眼になったカルテル」と規定して非難を浴びせている。感情の溝があまりに深く、仲裁者が出るのも難しい状況だ。

K-医療システムの未来は?

専門家たちはこの事態が長期化すれば、韓国の自慢だった健康保険中心の公共医療体系が崩れる可能性があると警告する。大学病院と公共病院が本来の機能を果たせなければ、患者たちは非給与診療中心の民間病院や営利病院に集まることになる。これは医療費上昇と医療不平等深刻化につながるだろう。

医療空白に乗じて実損保険会社の影響力が大きくなっている。非給与市場が膨張し、民間資本が医療市場を蚕食する可能性が高い。金のある人はより良いサービスを受け、金のない人は治療を受けられない「医療民営化」のディストピアが現実化しかねないという懸念が出ている。

低費用高効率を誇っていた「K-医療」システムは今や寿命が尽きたという悲観的な展望が優勢だ。3分診療、薄利多売式診療慣行、必須医療低点数など慢性的な問題が今回の事態で一度に噴出した。新しいパラダイムへの転換なしには韓国医療の未来はない。

最後のゴールデンタイム:2026年春のために

2026年3月の新学期が始まる前、この冬が最後のゴールデンタイムだ。破局を防ぐためには政府と医療界の双方が一歩ずつ退く勇気が必要だ。

政府は2026年の定員調整の可能性を開いておき、真正性のある対話ジェスチャーを取らなければならない。口先だけの「必須医療支援」ではなく、現場の医師たちが体感できる画期的な点数引き上げと法的保護装置の準備が急務だ。医療事故処理特例法の制定、専攻医連続勤務時間の短縮、修練費用の国家支援義務化など具体的なアメを法制化して信頼を回復しなければならない。

医療界は国民の生命を担保にした極端な闘争方式を撤回し、交渉テーブルに戻らなければならない。医師たちは「政府が我々を悪魔化した」と主張するが、国民は「患者を捨てた医師をどうして支持するのか」と冷笑的だ。エリート主義と特権意識に浸っているという批判を謙虚に受け入れ、国民の心を得るための努力が必要だ。

これ以上患者たちが病院の外で死んでいく悲劇を放置してはならない。国家は国民の生命と安全を責任負えていない。国民は今や自ら健康を守らなければならない「各自図生(それぞれが生きる道を図る)」の時代を生きている。「誰が勝とうが関係ないから、頼むから病気になったら治療を受けさせてくれ」というのが国民の率直な心情だ。

2026年の春にはキャンパスに学生たちが戻り、病院に医師たちが戻り、患者たちが安心して治療を受けられる「当たり前の日常」が回復することを切に願う。病気にならないことが唯一の生存戦略になってしまった2025年大韓民国の悲しい自画像だ。時間はあまり残っていない。

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ハン・ジウン

ハン・ジウン

私たち社会の様々なイシューと疎外された声に耳を傾けます。より良い共同体のための代案を模索します。

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